車のない島、スヒールモニコーホ
Photo: Wikimedia Commons
ラウヴェルスオーホを出るフェリーのデッキに立っている。ディーゼルの排気ガスと、ワッデン海特有の鋭くメタリックな潮の香りが混じり合う。風が強すぎて目が潤むが、別に感動しているわけじゃない。北海の風が肌を剥ぎ取ろうとしてくるからだ。これがスヒールモニコーホへの洗礼だ。ここは平坦で砂だらけの細長い土地で、オランダ人が「観光客の車は入れない」と決めた場所だ。正直、最高の決断だと思う。もし君がプールサイドのバーがあるリゾートを探しているなら、今すぐ引き返したほうがいい。ここは、靴下の中の砂や、髪にこびりつく塩気を気にしない奴らのための場所だ。
泥の塩気と、圧倒的な静寂
スヒールモニコーホは、巨大な国立公園に小さな村が一つくっついたような場所だ。空気感はどこまでも削ぎ落とされ、実用的。観光客の車の持ち込みが禁止されているため、島全体が不気味なほど心地よい静寂に包まれている。聞こえるのは、自転車のチェーンがガチャガチャ鳴る音と、砂丘を吹き抜ける風の轟音だけだ。歩くか、さもなくば物理的な壁のように立ちはだかる向かい風の中をペダルを漕ぐしかない。嫌でもペースを落とさせられる場所だ。
この島は、ハイカーや野鳥観察家、そして数日間だけ世間から消えたい一人旅の人間たちのためにある。潮が引いて、どこまでも続く灰色の肋骨のような泥地が姿を現すのを眺めて喜べるような奴らだ。派手なナイトライフや高級ショッピングを求めるなら、ここでは悲惨な思いをするだろう。あるのは一つの村と、大量の草、そして砂漠のように広大なビーチだけだ。
風と季節
7月や8月に来れば、レンタル自転車に乗ったオランダ人家族と道を共有することになる。一年で一番混む時期だが、それでも窮屈さは感じない。島の大半がただの何もない空間だからだ。海水温は決して温かいとは言えないが、夏の終わりなら、肌を刺すような冷たさに耐えて一泳ぎすることもできる。
スヒールモニコーホの真価が発揮されるのは、シーズンオフの5月や9月だ。光は鋭く澄み渡り、渡り鳥の群れが空を埋める。もし冬に来る度胸があるなら、本格的なパーカを忘れないことだ。島は荒涼とした灰色の風景に変わり、世界の果てのような雰囲気になる。季節営業の店はほとんど閉まり、残されるのは最低限のインフラと、むき出しの自然だけだ。
広大な砂浜と冷たい鉄
北側のビーチはヨーロッパでも有数の広さを誇る。ここはタオルを敷いて寝そべるような場所じゃない。トレッキングをするための場所だ。水際に向かって20分歩いても、まだ辿り着けないような感覚に陥る。西の端には「ヘ・リフ」と呼ばれる巨大な砂州があり、まるで月面のような光景が広がっている。空っぽで、荒涼としていて、頭を空っぽにするには最高の場所だ。
目印を探すなら、2つの灯台を見るといい。白い灯台はもう使われていないが、赤い灯台は現役で、島の空を支配している。また、高い砂丘の上には第二次世界大戦時の古いバンカー「ヴァッサーマン」が鎮座している。冷たいコンクリートの塊は歴史の傷跡だが、ここからは島全体と暗い北海を一望できる。野生動物に興味があるなら、ヴェスタープラスへ行くといい。淡水の池にある木製の観察小屋に座れば、ヘラサギやチュウヒを独り占めできる。
泥の海を越えて
まずはラウヴェルスオーホまで行く必要がある。アムステルダムからなら、列車でフローニンゲンへ行き、そこからフェリーターミナル行きのバスに乗る。フェリーはワーゲンボルフ社が運営しており、ワッデン海を渡るのに約45分かかる。晴れた日には、砂州で日向ぼっこをするアザラシが見えることもある。
20分で着く高速船もあるが、料金は高いし、島のリズムに体を慣らすための「スローな時間」を逃すことになる。船が接岸すると、村やキャンプ場へ向かうバスが待っているが、大抵の人間は荷物を掴んでそのまま自転車のレンタル小屋へ直行する。
ペダルと足
自転車以外の移動手段は考えないほうがいい。訪問者は車を運転できないルールだ。島は小さく、追い風なら村から東の端まで40分もあれば着く。だがもし向かい風なら、その倍の時間は覚悟し、汗をかく準備をすることだ。
砂丘の間を通る道はきれいに舗装されているが、この島の本当の姿を見たいなら、塩性湿地を切り裂くハイキングコースへ入れ。フェリー乗り場と村の間には電気バスが走っているから、重いバックパックを背負っている時は便利だが、それ以外は自分の脚がメインエンジンだ。
島に一つだけの村
村は一つしかない。名前も島と同じスヒールモニコーホだ。古い船長の家やシンプルなレンガ造りの建物が集まっている。3、4軒あるパブや食料品店の近くにいたいなら、ここに泊まるのが正解だ。小さなホテルやB&Bもいくつかある。
予算を抑えたい自然派なら、「セードゥーネ」のようなキャンプ場がベストだ。砂丘の中に位置し、キジの鳴き声と松の葉の香りで目が覚める。設備は最低限だが、それがいい。家族連れで賑わう大型のホテルコンプレックスは避けたほうが無難だ。
揚げ魚と酸っぱいベリー
食べ物は正直で、島の物価らしく少し高い。地元の屋台で売っている「キッベリング(白身魚のフライ)」は絶対に試すべきだ。脂っこくて塩辛いが、15キロ以上自転車を漕いだ後の体にはこれが必要だ。それから「ドゥインドールン(シーバックソーン)」を使ったものも探してみてほしい。砂丘の至る所に生えている鮮やかなオレンジ色のベリーで、猛烈に酸っぱいが、ジャムやリキュールにすると絶品だ。
水道水は完全に安全で、ボトル入りの水より美味い。夕食は村のタベルナで、ステーキやムール貝、太いフライドポテトといった標準的なオランダ料理が楽しめる。ナイトライフと呼べるようなものは皆無だ。地元のカフェでビールを飲み、沈む夕日を眺め、10時には寝る。潮風にあたると、泥のように眠れるからだ。
砂の上でのサバイバル
オランダの他の場所と同様、現金は過去の遺物になりつつある。コーヒー一杯でもカード払いが好まれる。村にATMはあるが、常に現金が入っていると期待しないほうがいい。
モバイル電波は島中で驚くほどよく入り、湿地の真ん中でも4Gや5Gが繋がる。ただし、営業時間は短い。スーパーは夜遅くまでやっていないし、日曜日は島の動きがさらにスローになる。遅い時間のフェリーで到着するなら、パックの中に食料を忍ばせておくことだ。
日帰り客を避ける方法
バトヴェフ近くのメインビーチの入り口は、日中かなり混み合う。村から一番近いため、家族連れや日帰り客がそこに固まるからだ。逃げ出したいなら、ただ東へペダルを漕げばいい。ボシュプラート方面へ進めば進むほど、人の姿は消えていく。
島の東半分は鳥の繁殖期には立ち入り制限がかかるが、開放されているトレイルは静かで荒々しい。トラクターに引かれたトレーラーに30人の観光客と一緒に詰め込まれる「ワゴンツアー」なんてものは無視していい。頑丈な自転車を借り、ウィンドブレーカーを羽織り、砂丘を目指せ。スヒールモニコーホの最高のスポットは絵葉書の中にはない。潮が満ちてくる音しか聞こえない、誰もいない塩性湿地にある。