ホルボックス島の泥道を歩く
Photo: Wikimedia Commons
チキラの桟橋に立ち、ナイン・エルマノス号(9 Hermanos)のフェリーからライムの箱と3本の重いブタンガスボンベが下ろされるのを眺めていた。乗船の合図がかかると、辺りには潮の香りと低硫黄ディーゼルの排気音が漂っていた。20分後、私が降り立った木造のドックの先で、舗装路は完全に途切れていた。この島に車は存在しない。聞こえてくるのはガソリン式ゴルフカートのエンジン音と、湿った砂を踏む音だけだ。熱帯低気圧の直後に到着した私の目の前には、単なる埃っぽい道ではなく、戦略的な足運びなしには渡れない巨大な水たまりと化した通りが広がっていた。
島の特性と向き不向き
ホルボックス島は、ユム・バラム(Yum Balam)生物圏保護区内に位置する全長40キロメートルの細長い砂州である。完成されたリゾート地というよりは、未だ発展途上の現場といった趣がある。舗装道路はなく、大雨が降れば電気は瞬き、インターネット接続は不安定。このインフラの欠如こそが島の性格を決定づけている。
この島は、高級ショッピングやナイトライフよりも、バードウォッチングや遠浅の海を歩くことを好む旅行者に向いている。多少の泥汚れを気にせず、高速道路の騒音よりもゴルフカートのエンジン音の方がましだと思える人には最適だ。一方で、消毒されたような清潔感や、ハイスピードなラグジュアリー体験を求める人には向かない。Zoom会議のために安定した光回線が必要な人や、マングローブから時折漂う硫黄の臭いに耐えられない人は、プラヤ・デル・カルメンに留まるべきだ。
季節のサイクルと訪問時期
この島のカレンダーは、ジンベエザメと雨によって支配されている。
- 6月〜9月中旬: ジンベエザメのシーズン。高温多湿で非常に混雑する。サメを見ることができる唯一の時期だが、あらゆる物価が高騰する。
- 10月〜1月: 雨季。「ノルテス(nortes)」と呼ばれる北風が嵐を連れてくることがあり、通りが数日間にわたって川のようになり通行不能になる。気温は下がるが、蚊が大量に発生する。
- 2月〜5月: 乾季。実務的な観点からはこの時期がベストだ。天候は安定し、道は歩きやすい砂道に戻り、海の透明度も高い。
主要なスポットとランドマーク
ホルボックスの地理そのものが、この島最大の魅力である。
- プンタ・モスキート: 暑くなる前の午前7時に歩き始めた。フラミンゴが群れる保護区にたどり着くには、砂州沿いにふくらはぎほどの深さの海を渡る必要がある。ブイのラインを越えてはならない。そこは厳重な保護区域だ。
- プンタ・ココス: 島の西端に位置する。夕日を眺めるのに最高の場所であり、新月の夜には生物発光が見られる。メインのビーチエリアよりも水深が浅く、穏やかだ。
- ユム・バラム生物圏保護区: イスラ・パハロス(小鳥の島)やヤラハウ・セノーテを巡るボートツアーが一般的だ。セノーテはマングローブに囲まれた真水の泉で、海水に浸かりきった体をリフレッシュさせるのに欠かせない。
フェリー航路とアクセス
ホルボックスへ行くには、複数の段階を踏む必要がある。多くの旅行者はカンクン国際空港(CUN)を利用する。そこから港町チキラへ向かう主な方法は3つある。
- ADOバス: 最も信頼性が高く、コストパフォーマンスが良い。所要時間は約3.5時間、料金は350〜400ペソ程度。
- プライベート送迎: 2.5時間と早いが、150ドル以上の費用がかかる。
- シェアシャトル: 地元のエージェントを通じて予約する中間的な選択肢。
チキラに着くと、**ナイン・エルマノス(9 Hermanos)とホルボックス・エクスプレス(Holbox Express)**の2社がフェリーを運航している。30分おきに交互に出航しており、片道料金は220〜250ペソ。事前予約の必要はなく、その時次に出る船のチケットを窓口で買えばいい。
島内での移動手段
車がないことが、この島のロジスティクスを定義している。
- 徒歩: 中央広場付近に宿泊すれば、ほとんどの場所へ10分以内で歩ける。
- 自転車: プンタ・ココスへ行くには最適だ。レンタル料は1時間50ペソ、1日250〜300ペソ程度。借りる前にチェーンが錆びていないか確認すること。
- ゴルフカート・タクシー: 島におけるUberのような存在だ。料金はゾーン制の固定料金で、短距離なら100ペソから。
- ゴルフカート・レンタル: 高価であり、多くの場合不要だ。24時間で1,500〜2,000ペソほどかかる。重い荷物がある場合や移動に制限がある場合を除き、レンタルは推奨しない。
宿泊エリアの選び方
- 中央広場(セントロ): 初めての訪問者や一人旅に適している。フェリー乗り場や島に数少ないATM、安価な飲食店が近い。ただし、深夜まで騒がしい。
- プラヤ・ノルテ: 大規模なホテルが集まるエリア。静かでビーチへのアクセスも良いが、宿泊料金は大幅に上がる。
- プンタ・ココス周辺: 静かな自然を求める人向け。人里離れた雰囲気だが、町へ夕食に出るたびにタクシー代が往復200ペソ加算されることを覚えておく必要がある。
食文化と夜の過ごし方
食のハイライトはロブスター・ピザだ。**ルーツ(Roots)**が最も有名で、観光客向けではあるが、薪窯で焼かれた生地の質は高い。大きなピザ1枚で600ペソ程度を見込んでおくこと。
日常的な食事なら、広場近くの小さなタコス屋台を探すといい。アル・パストールのタコス4つとソーダで150ペソ以下に収まる。
水の安全性: 水道水は決して飲まないこと。歯磨きであってもボトル入りの水を使う。ほとんどのホテルには5ガロンのガラフォン(ボトル)が用意されている。
ナイトライフ: 控えめだ。日没時にビーチバーに集まり、その後ライブ音楽を求めて広場へ移動するのが一般的。午後11時を過ぎれば、島は概ね静まり返る。
実務的なサバイバル・チップス
- 現金持参は必須: 一部のホテルや高級レストランではカードが使えるが(通常3〜5%の手数料が上乗せされる)、島は基本的にペソ現金で動いている。広場にある数少ないATMは、頻繁に現金切れを起こすか故障している。カンクン空港かチキラの町で、滞在に必要な全額を引き出しておくことを強く勧める。
- 通信環境: テルセル(Telcel)の電波が最も強いが、それでも不安定だ。AiraloなどのeSIMを使用する場合、MovistarやAT&Tのネットワークに接続されることが多いが、町から離れると繋がりにくい。ホテルのWi-Fiは衛星回線に頼っていることが多く、雨が降ると機能しない。
- 電力: 停電は日常茶飯事だ。モバイルバッテリーを必ず持参すること。
- 蚊: 夜明けと夕暮れ時に発生する「ヘヘネス(jejenes)」という吸血虫は非常に厄介だ。地元の薬局で売っている「Off! Deep Woods」が、天然由来の忌避剤よりも効果がある。
避けるべき場所と静かな穴場
過大評価: プラヤ・ノルテにある「Holbox」の看板と、海の中に設置されたハンモック。日中は写真撮影のために行列ができ、人が多いため砂が舞い上がって水が濁っていることが多い。
静かな穴場: 午前6時半頃、東のプンタ・モスキートに向かって歩くこと。最後のホテル「ラス・ヌベス(Las Nubes)」を通り過ぎると、人影は消える。鏡のような海と砂州を独り占めできる。また、町の南側にある墓地も静かだ。小さく色彩豊かで、観光地化された表通りとは違う地元のコミュニティの姿を垣間見ることができる。